2006/08/13 上梓

ボード配置論[幅広/細長/L字]

本稿の趣旨

(1) 鉄道模型レイアウトにおけるボードの配置構成は、幅広/細長/L字に大別して考えることが出来る。

(2) それぞれのボードの配置構成には一長一短があり、一概にどれが優れていると結論することは出来ない。

(3) 鉄道模型シミュレーターによる事前検証をおこなうことで、自身のニーズに合った最適なボード配置構成を選択することが可能となる。

レイアウト設計論シリーズでは、論考のサマリーを冒頭に掲げます。サマリーを読んで完全に理解できた方は以降を読むには及びません。ハッキリ言って時間の無駄です。

予めお断り申し上げますが、本稿は鉄道模型レイアウトにおけるボード配置構成について「こうでなければならない」というドグマを提唱するものではありません。

ただ、個々のレイアウト施工者のニーズを考えた場合、それぞれのニーズに沿ったボードの配置構成の最適解は存在し得る、と言うことは可能であると思われます。本稿は、その一例を示すものです。

レイアウトサイズ、最長直線と編成長の関係については、はいで氏の「おきらく研究室」極めてユニークかつ実証的な研究がまとめられています。一読に値すると思いますのでご参照ください。

本稿における前提条件

本稿は、VRM→Nご意見箱における、クイーン氏との質疑応答を発端に書き起こされました。そこで、議論の発散を防ぐためにも、クイーン氏が想定しているレイアウト製作条件を、本稿における前提条件として採用します。大雑把にまとめると以下のようなものです。

・600x900mmレイアウトボードを2枚使用する。

・長編成のヨーロッパ型車両(氏はEurostarを想定)を走らせる。

・TOMIX FineTrackレールを使用する(※)。

※は必ずしもクイーン氏の要請ではありませんが、フレキシブルレール前提にすると「どうとでも出来てしまう」ために議論がまとまりませんので、敢えて設定します。

以下、この前提条件を受けて、2枚のボードの配置構成の違いが、特に長編成の車両をどのように見せるのかをシミュレートしてみたいと思います。

ボード配置に対するトラックプランは、緩和曲線を有するオーバルループに統一しています。また、一般的に個人がこのサイズの鉄道模型レイアウトを所有する場合、ボードの一辺乃至二辺が部屋の壁に接するであろう、との想定から、奥手のカーブには243mmの急曲線を配して手前側の余地を確保する戦略を採用しています。

なお、議論をボード配置とトラックプランに集約すべく、シナリー・ストラクチャは一切考えません。手抜きではありません、手抜きじゃないんだったら。

本稿で論じる各ボード配置構成の短所を、シナリーやストラクチャでカバーする、という発想は当然あって然りですが、話がややこしくなるので割愛。気が向けば後日改めて。

“幅広”構成の例

レイアウトボードの長手方向(900mmの辺)同士を接合する配置を、“幅広”と呼ぶことにします。ボードが2枚であれば、1200x900mmの、正方形に近い長方形になります。拙第三期レイアウトがこの構成を採用しています。以下にVRMによるトラックプランの例を示します。

<幅広構成の例>

総延長:約3,500mm

最長直線:約660mm

最長直線(含緩和曲線):約750mm

この構成の特徴は、レイアウトの縦/横両方向に対して直線部を設けることが出来る点に尽きるでしょう。それは裏返せば、1つ1つの直線が短くなるということでもあります。

試みに、このレイアウトに編成を走らせてみましょう。以降、試験走行には(VRMにEurostarがないので)ICE-Tの7両編成を使用します。

<幅広構成のレイアウトに編成を走らせてみると・・・>

注目すべきは、常に編成がカーブにかかっている、点でしょう。これは直線が四辺に分散されている結果です。その一方で、デスクトップレイアウトでしばしば問題視される「頭としっぽが同じ方を向く」現象は、この編成長であればギリギリ回避されています。これは四辺すべてに直線があることによります。

頭としっぽ・・・は、連続する180度カーブを設けると必然的に発生する。編成長によっては脱線多発の原因にもなるので要注意。

ただ、これだけを持ってこのボード配置を評価するのは誤りです。と言うのも、この構成がおそらくもっともトラック内部の余地が活用しやすい構成であるからです。すなわち、シナリー・ストラクチャの作り込みに主眼があるのであれば、この配置構成にはそれなりの魅力があります。

また、TOMIX FineTrackを使用する限りにおいては、リバース線を作ることが出来るのは、事実上はこの配置構成だけでしょう。

リバースについてはこちらを参照。

“細長”構成の例

レイアウトボードの短手方向(600mmの辺)同士を接合する配置を、“細長”と呼ぶことにします。ボードが2枚であれば、1800x600mmの、細長い長方形になります。拙第一/二期レイアウトがこの構成を採用しています。以下にVRMによるトラックプランの例を示します。

<細長構成の例>

総延長:約4,100mm

最長直線:約1,260mm

最長直線(含緩和曲線):約1,320mm

この構成は先の“幅広”の裏返しであり、当然のことながらその最大の特徴は直線部の長さにあります。その反面、カーブは180度の折り返しとなり「頭としっぽが同じ方向を向く」は回避できません。

<細長構成のレイアウトに編成を走らせてみると・・・>

この編成長であれば、編成全体を直線に収めることが可能です。もちろん、すぐにカーブにさしかかってしまうのは否めませんが、レイアウト手前側についてはC541-15による緩和曲線を設けているので、想像以上に自然な走行を楽しむことができると思います。

また、1,000mm超の直線部が確保できることから、編成を呑むことのできる駅を設置できるのは、この配置構成のみであることは間違いありません。ただし、奥行きがほとんどないに等しいため、下手に駅を設けると返って実感を損ねる恐れもあります。

 

駅の設置については、こちらの拙稿も合わせてご覧いただければと思います。

1つバリエーションを考えてみましょう。

鉄道写真の撮影の定石の1つとして「カーブの内側から撮る」というものがあります。視界の開けた緩やかなカーブがあり、その内側に安全に三脚を立てられる場所があれば、鉄道写真愛好家から珍重されます。これは、このアングルが編成全体を収めるのに都合が良いからです。

鉄道模型レイアウトも同様で、見る者がカーブの内側に立つと美しくしなる編成全体を視界に捉えることが出来ます。が、先に示した“幅広”構成では、レイアウトボードの内部に向かって反るカーブを設けることは極めて困難です。

<カーブの内側に立つことの出来るトラックプランの例>

総延長:約4,000mm

最長直線:約1,260mm

最長直線(含緩和曲線):約1,300mm

<内側に沿ったカーブに編成を走らせてみると・・・>

カーブを増やした分だけ手前方向の連続した直線は失われますが、緩和曲線(C541-15)を直線の一部と考えるのであれば、手前の直線部の有効長は先に示したトラックプランと大差ありません。むしろ、レイアウト鑑賞の普通のポジションがカーブの内側になる、というメリットの方が大きいのではないか、と思うのですが如何でしょうか。

ただし、先のプランに比較して、このプランではさらにシナリー・ストラクチャの自由度が下がっている点は否めないでしょう。事実上、手前の緩和曲線を含む直線部は、築堤化等によって「走行可能な車両撮影台」にしてしまうしかないと思われます。

築堤については、こちらの拙稿も合わせてご覧いただければと思います。

“L字”構成の例

二枚のレイアウトボードの組み合わせ方を考えた場合、かならずしも長方形に組み上げる必要はありません。互いの長さの異なる辺で接合し、アルファベットの“Lの字”のように組み合わせるのも1つの手です。このレイアウトの設置場所が部屋の隅であれば、むしろ好都合ですらあります。

<L字構成の例>

総延長:約3,850mm

これまで、「どれだけの連続した直線部を確保できるか」という観点でボード配置構成とトラックプランを見てきましたが、この構成例では端から直線部の確保を放棄しています。その代わり、大きくゆるやかなカーブを通過する編成を「カーブの内側から眺める」点に注力しています。

<ゆるやかなカーブに編成を走らせてみると・・・>

もちろん、個々人の好みにもよりますが、必ずしも連続直線区間にこだわらなくとも。ある程度の編成長の列車を走らせることが不自然にならない例、としてこのプランを見ていただければ、と思います。

まとめ

拙稿で繰り返し論じていることではありますが、よほど優れた立体認識能力や、距離把握能力をお持ちでない限り、施工していない鉄道模型レイアウトが完成時にどんな姿に見えるのかを脳内だけでイメージするのは極めて困難です。

本稿では、たかが2枚のレイアウトボードであっても、その置き方1つでトラックプランと、走行する編成の見た目が大きく変わることを鉄道模型シミュレーター(VRM)を使って例示してみました。

ここに示したスクリーンショットは、VRMなくしては、実際にレイアウトボードとトラックプランに見合ったレールを購入しない限り見ることの出来ない光景です。ぶっちゃけた話をすると、VRM(とそれを稼動させることの出来るPC)は十分に高価なので、VRMによる事前シミュレーションで鉄道模型部材の無駄買いを回避出来たとしても、コストメリットはほとんど生じないか、あるいは赤字です。

が、レイアウト施工経験がおありの方にはご賛同いただけるかと思うのですが、一度部材を購入してしまうと、「それを使わなければならない」という強い心理的な動機付けが起こります。実際にレールを並べてみて「これは(自分の目指していた風景とは)違うな」と思っても、「もう買っちゃったから」と施工を断行される方は、意外に多いのではないでしょうか。

特に、初めて施工するレイアウトでこのパターンにひっかかると、敢えて2つ目に挑戦しようという人は稀なのではないでしょうか。

ここには、部材購入費としては計上されない鉄道模型レイアウト作りの2つのコストが関係してきます。すなわち「時間」と「精神力」です。VRMによる事前シミュレーションは、より少ない「時間」で、かつ無駄な「精神力」を消費することなく、より自身の理想の鉄道風景にレイアウトを近づける経路を皆さんに提供します。これがすべてです。

 

もちろん、無駄を覚悟で、手探りで進む面白さ、というのも捨て難いものではありますが。

例によって例の如く、マジ半分ネタ半分です。あまり真に受けないようご注意ください。

 


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