2005/07/13 上梓

築堤論[足元/仰視/立体感]

本稿の趣旨

(1) 鉄道模型レイアウトにおける築堤には「足元の演出」「仰視の確保」「立体感の表現」といった大きな効果が期待できる。

(2) 一方で、築堤はその構造上の位置付けから、その効果を最大化するトライ&エラーを自由におこなうことが難しい。

(3) 鉄道模型シミュレーターの3Dグラフィックスで築堤の設計をおこなうことにより、その効果を最大化しつつ安心して施工を進めることが可能となる。

レイアウト設計論シリーズでは、論考のサマリーを冒頭に掲げます。サマリーを読んで完全に理解できた方は以降を読むには及びません。ハッキリ言って時間の無駄です。

現実の鉄道における「築堤」とは、「起伏のある地形に対し、盛土等によって水平の路面を確保した区間」のことを言うのだと思います。本稿では、鉄道模型レイアウト上の実装を論じる観点から、築堤の意味をもう少し広くとって、「レール設置面よりも低いシナリーを有する区間」を築堤と呼ぶことにします。

鉄道模型レイアウトにおける築堤の効果

鉄道模型レイアウト、特にデスクトップレイアウトに築堤区間を設けることは、どのような効果を持つのでしょうか。まずは論より証拠、VRMを使って簡単な実験をしてみましょう。以下に示すスクリーンショットは、別頁レイアウトプラン集所収の「無勾配山岳路線風レイアウト」を例に、同一区間において築堤表現を盛り込んだ場合と、そうでない場合をVRMでシミュレーションしたものです。

このように、レイアウトにある要素がある場合とない場合を簡単に比較検証できるのも、VRMの大きな利点の1つです。

<上・築堤無し/下築堤有り>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詳しくはレイアウトプラン集の頁をご覧いただくとして、左写真区間は、線路手前・奥共に線路面よりも低くなっており、実在鉄道の狭義の「築堤」の語義に通じるものになっている。

<上・築堤無し/下・築堤有り>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらの例は、狭義の築堤ではなく、むしろ崖沿いに設けられた「切り通し」区間ということになろうが、本稿では広義に「築堤」に含めることにする。

鉄道模型レイアウトに築堤がもたらす効果は、大雑把に言って「足元の演出」「仰視の確保」「立体感の表現」に集約されると考えられます。

足元の演出は、築堤によって模型車輌の足元に空間的な広がりが生じる効果です。特に、これまでにも何度か取り上げましたが、デスクトップレイアウトのコーナー部分のカーブ区間は、無味乾燥なものになりがちです。築堤により、模型車輌の足元に情景を作り込むことが可能となり、これが車輌の台車や床下のディテールをより一層引き立てます。

築堤による足元の演出効果については、こちらこちらのレイアウトプランでも触れていますのでご参照ください。

仰視の確保とは、要するに「見上げる視線」が可能になるということです。一般的に鉄道模型レイアウトは俯瞰することが多いと思いますが、俯瞰はただでさえ小さい模型車輌をより小さく見せてしまいます。鉄道模型に限らず、縮小模型は見上げることで、俯瞰では得られない迫力ある絵柄を得ることができます。築堤斜面は、この仰視の視線を確保することにつながります。

鉄道模型レイアウトにおける視線の問題については、こちらもご参照あれ。

この両者が相俟って、限られたデスクトップレイアウトの面積の中に立体感を生み出します。これは上掲の比較写真を見比べていただければ一目瞭然かと思われます。

築堤実装の難しさ

一方で築堤には、その実装において、鉄道模型レイアウトの他の要素と異なる難しさが存在します。

<拙作第一期レイアウトの施工過程>

後述するように、施工初期の築堤と、完成時の築堤は、その大きさが変化していないにもかかわらず、印象が随分変わる。

これは、素材の光の反射率が影響しているように思われる。セミフラットトップ的に発泡スチロール積層するにせよ、オープントップ的にプラスターで築堤を形成するにせよ、施工初期の表面色は白色で、反射率は高く、高低差が強調される傾向がある。

一方で、完成が近づくにつれ、築堤表面の反射率は塗料・植生素材によって低下していき、コントラストが落ちてシナリー全体の中に溶け込んでいく。

この過程により、施工初期の状態で満足のいく高低差を感じていても、完成してみると「あれ、この程度のダイナミズムしかないの?」と首を傾げる事態が発生することは想像に難くない。

上に示した写真は拙作第一期レイアウトの施工過程です。向かって左側のカーブ区間に築堤構造があります。この一連の写真から、築堤実装にまつわる問題を見て取ることができます。それは何か?

まず、築堤は構造上、レールを支える役割を担います。従って、その骨組みは施工初期に形成されていなければなりません。上掲写真の上段、積層された発泡スチロールがそれにあたります。ところが、築堤が地面処理や植林を終えて実際にその完成した姿を見せるのは、施工の最後になります。最初に着手し、最後に完成する、それが鉄道模型レイアウトにおける築堤です。

これはghostが「縦展開依存の問題」と呼んでいる、鉄道模型レイアウト特有の設計・施工上の問題点の具体例となっている。

縦展開依存の問題については拙著「鉄道模型シミュレーター レイアウト設計と製作」の第1章、第5章で詳細に論じているのでご参照くださいまし。

このことが、築堤に鉄道模型レイアウトの他の要素にない極めて困難な性質を持たせることになります。それは、築堤、特にその完成した姿については現物合わせのトライ&エラーの余地がない、ということです。これは、上掲写真中段から下段にかけて、建物・樹木・道路などのストラクチャが、レイアウトに固着させるまでは仮置きしながら現物合わせの試行錯誤が可能であることと対照的です。

築堤に、前述したように「足元」「仰視」「立体感」という効果を期待するからには、その高低差や表面処理はその効果が最大となるように調整したいところです。ところが、ここまで述べたように築堤についてはその検討が、事実上不可能です。無論、施工初期の段階(つまり最上段の無垢な発泡スチロール板積層の状態)である程度の試行錯誤は可能でしょう。しかし、これも上写真を見ればわかるように、最終的に地面処理を終えた築堤の印象は、施工初期のそれと大きく変化しています。そして、ここまで来て高低差に満足のいかないものを感じても、最早手遅れなのです。

そこでVRMの出番です

拙Webの熱心な読者であれば、既に聞き飽きた話かとは思いますが、築堤の設計、特にその「足元の演出」「仰視の確保」「立体感の表現」の効果を最大化する試行錯誤に、鉄道模型シミュレーター=VRMは強力な支援ツールとなります。VRMは、Nゲージレイアウトの実寸法を3Dグラフィックスによってリアルに描き出します。

 

<VRMによるシミュレーションと完成後の比較>

上掲のVRM/Nゲージレイアウトの同アングルスナップを、特に築堤の高さが全体の印象に与えている効果に注目して比較してください。CGと実物の質感の差異は如何ともし難い点は否定できませんが、築堤が周辺の情景にもたらしている効果が極めて忠実に描き出されていることがおわかりいただけるのではないかと思います。

築堤はさておき、下段の第三期レイアウトの山の形にはかなりの乖離がありますな、トホホ・・・

そして、これまた繰り返しになりますが、VRMによるレイアウト設計は、リアルNゲージレイアウトと異なり、簡単にトライ&エラーを繰り返すことができます。築堤の高さや長さ、表面の処理をVRMを使って納得のいくまで検討すれば、たとえ施工初期段階のそれがVRMが描き出すそれとは違った印象を与えたとしても、完成時の築堤はVRMのそれと極めて近いものに仕上がるはずです。つまり、完成した築堤を見て、初めて「あれ、こんなはずじゃなかったのに」と思うことがない、ということなのです。

例によって例の如く、マジ半分ネタ半分です。あまり真に受けないようご注意ください。

 


Webmaster: ghost@nodus.ne.jp