2005/03/28 上梓

様式論[セクション/モジュール/エンドレス]

本稿の趣旨

(1) セクション/モジュール/エンドレスの各様式に絶対的な優劣は存在しない。それぞれに長所短所がある。

(2) レイアウト施工に際し、セクション/モジュール/エンドレスのいずれを選択するかを、模型列車の走行可用性のみで判断するのは危険である。

(3) 鉄道模型シミュレーターを活用することにより、自身の「理想の鉄道風景」に合致した様式を選択することが出来る。

レイアウト設計論シリーズでは、毎回このように論考のサマリーを冒頭に掲げます。サマリーを読んで完全に理解できた方は以降を読むには及びません。ハッキリ言って時間の無駄ですから。

はじめに。

鉄道模型レイアウトの様式の呼称としてのセクション/モジュール/エンドレスについては、その分類に確固とした線引きがないと考えらます。そもそも語の位相がバラバラですから。果物を分類するのに、みかん/黄色/丸、のうちのどれ、と尋ねることに意味がないが如し。

読者各位においては異論もあると思われますが、本稿ではとりあえず考察対象をデスクトップサイズのレイアウトに絞り込んだ上で、以下のように定義します。

「デスクトップサイズ」は600x900mm、もしくはその程度のサイズ、の意味とご理解あれかし。

 

<セクション>

現実の風景の再現を最優先し、写真に撮るが如くその一部を切り抜くスタイル。走行は前提としない。

<モジュール>

他者製作レイアウトとの連結を最優先し、そのための規格に準じるスタイル。情景もある程度は隣接モジュールと親和させる。

<エンドレス>

自己製作レイアウト内での走行完結を最優先し、そのためのディフォルメを受容するスタイル。情景のリアリティは妥協する。

 

とりあえずこんなもんで最大公約数でしょうか。

ある意味において、これらの全要素をスーパーセットとして備える代わりにサイズの制約を取り払うのが、「純然たる鉄道模型レイアウト」と言えるのでしょう。

なお、本稿はこれらのレイアウト様式に優劣をつける意図は毛頭ありません、念のため。

貴方が鉄道模型レイアウト作りを決意したとしましょう。大抵の場合、自室を覆い尽くすような巨大レイアウトを作れる方は稀でしょうから、デスクトップサイズあたりに落ち着くのではないでしょうか。その際、何はさておき最初にしなければならないのは、上記の3つの様式からの選択ということになるでしょう。

ghostは自分の書いていることが独創的だとは思っていません。長い鉄道模型の歴史の中で、私如きが論じることなど、既に論じ尽くされているであろうことは百も承知。

ただ、不精なghostは未だ私の関心のある事柄についてまとめて書かれたモノに出会えないので、こうして「蜘蛛の巣」を張る次第。実のトコロ、こうして書き続けていれば、そのうち誰かが「そんなこと〜に書いてあるぞ、ボケ!!」と教えてくれることを期待してます。

一般的に、この「選択」を決定する要素は上の定義にも含まれていますが、「現実の風景の再現」「他者製作レイアウトと連結しての走行」「自己製作レイアウトでの走行完結」のどれを優先するかによる、と考えて良いと思われます。模型車輌の「走行」をキーワードにこれを読み替えると、すなわち「走行を諦める」のか「運転会で走行できれば良し」とするのか、それとも「自分一人で走行したい」のか、と言うことになるでしょう。本稿では、この自明の事柄に疑問を投げてみたいと思います。

 「理想の鉄道風景」を目指そう

当Web、そして本館VRMoviesでは、一貫して「理想の鉄道風景を再現する」をテーマに掲げている、つもり、です。単なる「鉄道風景の再現」ではなく、頭に「理想の」が付いている点がミソです。

鉄道写真の撮影を嗜む方であれば思い当たる節もあるのではないかと思うのですが、存外、現実の鉄道風景というものは「理想」とかけ離れていることがままあります。当然のことながら、鉄道の敷設を決定付ける要素は工学的そして経済的な必然性(あるいは妥当性)であって、鉄道ファンの美学ではありません。撮影名所と聞いて出かけてみると、意外に余計な被写体(雑然とした街並み、場違いな広告、放置された粗大ゴミetc...)があったりします。

そこで、鉄道ファンの指向性は3つに分化します。

「雑然としたものも含めて真実の鉄道風景なのだからそれを受け入れよう」と悟り(?)を開くか。「写真の技術で美しい構図を現実から切り抜こう」と腕を磨くか。「理想の鉄道風景がないなら作ってしまえ」と別次元(すなわち模型の世界へと)飛躍するか。本稿は最後の視点に沿って書かれています。

繰り返しますが、ghostがいくつかの方向性を選択肢として例示するに際しては、その選択肢間の優劣を決する意図はまったくありません。そんなものは人それぞれです。

そこで考えてみたいのは、冒頭に掲げた鉄道模型レイアウトの様式の選択について、ともすれば走行可用性が決定権を握るこの分岐点に、「どの様式が自分の理想の鉄道風景の再現に相応しいか」という視点も設定した方が良いのではないかという提案、そしてそれを実現するための手段の提示です。

と言うのも、固い決意をもって鉄道模型レイアウト作りに挑む皆様には余計なお世話かとは思うのですが、いざ作り出してみてその姿が明らかになるにつれ、自分の理想とした鉄道風景とはほど遠いことに気づいて途方にくれ、そのまま放置、という人は意外に多いのではないか、と推察する次第。最初の「選択」に際して「理想の鉄道風景の再現」が考慮されていれば、そのリスクは軽減されるはずです。

古人曰く、言うは易く行うは難し、云々。

そりゃそうでしょう、と。ただ、作ってみないことには、出来上がるものが「理想の鉄道風景」になるかどうかなんてわかるわけがないでしょう、と。走行可用性が工学的に自明であるのに対し、美学的な評価は具体的な完成品を見ない限りは、少なくとも製作に着手しおぼろげながらも全容が見えてこない限りは下しようがありません。

そこで、鉄道模型シミュレーター=VRMが登場するのはお約束なワケですが、ここで具体例を示す前に是非とも注意を喚起しておきたいのは、この議論におけるVRMの位置付けです。思うに、一般的にVRMは「リアル鉄道模型施工が出来ない人のための擬似鉄道模型体験」と解されていることが多いように思いますが、これは謬見です。

別にI.MAGiCさんから宣伝費とかはもらってないです、純粋に(・・・はちょっとウソですが)酔狂です、念のため。

VRMはリアル鉄道模型の代替物ではありません。VRMは未だ見ざる「貴方自身の理想の鉄道風景を貴方自身が発見するためのツール」です。いきなりのリアル鉄道模型施工に伴うリスクを回避し最低限のコストで貴方自身の「理想の鉄道風景」を具現化する、これこそがVRMが鉄道模型「シミュレーター」を名乗っていることの意味なのだ、とご理解いただいた上で、以下のちょっとした実験をご覧ください。

シミュレーションで様式を選ぶ

セクション/モジュール/エンドレスのいずれの様式で鉄道模型レイアウト製作に挑むか。どの様式を選択すれば結果的に自身の「理想の鉄道風景」により近い結果が得られるか。VRMを使えば、実際に製作に着手する前により正解(自分にとっての、念のため)に近い結論を得られるはずです。

それは具体的にどんな感じになるのか。実際に実験してみたのが以下のスクリーンショットです。まずはご覧いただきましょう。

<セクション様式>

<モジュール様式>

<エンドレス様式>

上掲の3つのスクリーンショットは、コンセプトを同じくするレイアウトをセクション/モジュール/エンドレスのそれぞれで設計してみるとどうなるか、を実験したものです。この実験に課したコンセプトは以下の通りです。

 

(1) 地方都市郊外の複線電化区間をイメージする。

(2) 踏切1つと線路に沿う道路を設ける。

(3) 大きさは300x600mmとする。ただしエンドレスについては600x900mmの一方のカーブ区間を抽出する。

(4) TOMIX道床付レール(FineTrack)を使用する。特にセクションについてはその必然性はないが、同条件対比のために敢えて設定。

(5) 使用するストラクチャはアパート・近郊住宅・駐車場各x1、商店x3、とする。

(6) その他、アクセサリー類も可能な限り統一する。

 

300x600mmはTOMIX市販のモジュール用ベースに準拠したもの。今回の作例のモジュール版も、TOMIXカタログ所収のモジュール規格に準拠している。

エンドレスの例示方法には我ながら問題を感じるが、エンドレス様式の最大の問題点が工学上必須となる急カーブにあるのは自明なので敢えてこうした。

レイアウター図面を示しながら、それぞれの様式の特徴を見ていきましょう。

各レイアウター図面はクリックすると原寸拡大表示されます。

[セクション様式]

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<レイアウター図面/セクション様式>

 

カーブ区間は、外側R317mm/内側R280mmとし、内外いずれも直線区間への移行部に緩和曲線としてR541mmを配置している。

セクション様式は走行可用性のためのレール配置制約が一切ない様式、と定義することができます。なので、上図のようにレールを配置する必然性はありません。が、後に示すモジュール/エンドレス様式との対比を考えると写実的な緩和曲線を含むカーブが良かろう、とこのようにしてみました。

加えて、カーブ曲率のみならず、レイアウトベースに対するレール配置角度の自由さも大きなポイントと思われます。モジュール/エンドレス様式がレール接続確保のために幾何学的なレール配置を強いられることとは対照的です。

<車輌を取り除いて俯瞰してみる>

構図の面白さ(主観的な基準ですが)から考えても、レールがレイアウトベースに対して斜めに敷かれている方が、より多くの視点から楽しめる構図になることは明らかと言って良いでしょう。ストラクチャの配置についても無理を感じることはなく、極めて自然な街並みを再現することが出来ます。

[モジュール様式]

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<レイアウター図面/モジュール様式>

 

もちろん、コーナーモジュールとなれば話は変わってくるが、本稿では便宜上直線モジュールに話を限定しておく。

モジュール様式では、何はさておき隣接モジュールとの接続を保証しなければならないため、ほぼ自動的にレール配置が決定します。作例では最もシンプルな直線モジュールを想定し、ストレートレールのみを配置しました。

隣接モジュールの作者同士で協議すればS字カーブ等を設けることも可能でしょうが、グニャグニャと蛇行するモジュール集合体、というのもちょっと想像し難いので、直線モジュールと言えばストレート区間である、と言ってしまって問題はないでしょう。

<車輌を取り除いて俯瞰してみる>

情景についても、セクション様式と劣らず実感的なそれを保っています。が、これも隣接モジュールとの整合性を考えた場合、道路の配置はどうしても幾何学的(作例のようにレールと平行にするなど)にならざるを得ないという制約があります。

[エンドレス様式]

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<レイアウター図面/エンドレス様式>

 

FineTrackデスクトップの定石に従い、外側線R280mm/内側線R243mm。

「エンドレス」という意味ではこれは全体の1/3でしかないので他の2様式と同列に語るのはやや衒学的に過ぎるが、まぁ、いいじゃん(ぉぃ。

エンドレス様式では否応無く現実には有り得ない急カーブと直面することになります。もちろん、エンドレス全体を考えれば直線部は存在しますが、600x900mmのデスクトップサイズでは定石では280mmのストレート区間しか確保できず、緩和曲線を設けることも事実上不可能です。

正直言うと、作例での道路の敷き方は邪道だ。ここだけ抜き出すとそれなりに見れるが、「あるべき残り部分」を作るとかなり妙チキリンに見えることだろう。

このことによる副次的な作用として、ストラクチャ配置の難しさも挙げられるべきでしょう。一般的な既成ストラクチャは幾何学的な配置を前提として設計されていますから、曲線区間との隣接にはそもそも向いていません。ましてやR280mm/243mmの急カーブに面するストラクチャについては、うまくそのミスマッチを誤魔化す工夫をしないと、極めて不自然な光景を生み出すことになります。

<車輌を取り除いて俯瞰してみる>

さらに、カーブ区間の外側に残る三角の余白地帯の処理も悩ましいものとなりがちです。作例では、一方に踏切を配置し(これはデスクトップエンドレスの定石であり、拙作第一期レイアウトもこれに倣っています)、もう一方には敢えて他の空間と隔離された場所に近郊住宅を配置することで、存在しない「その先の空間」を想像させる効果を狙ってみました。

目に見える形にして初めて気づくこと

奇特にもここまで読み進めていただいた方にはご面倒をおかけしますが、改めて画面を上方へスクロールしていただいて、VRMが描き出した3様式のスクリーンショットを見比べていただきたいと思います。

同じような風景、同じ建物、同じ車輌。でありながら、3種3様の長所短所を感じていただければ本稿の目的は達せられたも同然です。本稿は、この3様式のいずれが優れていずれが劣っている、といった直截的な主張をするものではありません。むしろ、これから鉄道模型レイアウトを作ろうとお考えの方々に、着手する前に、本稿で示したような一見回りくどい検討をお奨めするものです。その上で、3様式のいずれを選択するかは、貴方の「理想の鉄道風景」とどのスクリーンショットがマッチするかによります。

個人的には自分が採択している以外のモノを否定する言辞のみを弄する人、たとえば「モジュールなんてルール縛りでくだらない」とか「日本型N/16番なんてガニマタだ」とか「ファインスケールなんて普及しない」とかを偉そうに言う人はアホだと思います。

「とにかく単体で走行を完結させたい」という思いだけにひっぱられてエンドレス様式を選択すると、ひょっとすると「こんな不自然な風景は嫌だ」と挫折するかも知れません。逆に「走行はいいからリアルな風景を追及したい」という思いだけにひっぱられてセクション様式を選択すると、ひょっとすると途中で「やっぱり走行させたいよな」という欲求不満につぶされてしまうかも知れません。

もちろんghost自身は本稿に示したような考察を重ねた上で、独立走行可用性を選択し、情景のデフォルメを受容しました。が、そのうちセクションっぽいのは作りそうな気がします。

鉄道模型レイアウト作りは存外手間のかかる作業です。別稿でレイアウト製作過程におけるテンションとストレスの関係を論じていますのでご参照いただきたいと思いますが、本稿で論じたような検討抜きに施工を急いでしまった場合、ストレス最大あるいはテンション最小の瞬間に挫折の危機が訪れることは必定です。

最も重要な点は、鉄道模型シミュレーター=VRMは、未だ形を持たない、見えない「貴方の理想の鉄道風景」を目に見えるものにする力を持っているということに尽きます。大半の人々の脳は抽象的なイメージを評価するほど上等には出来ていません。

貴方の脳が上等ではない、という意味ではありません、念のため。

教科書を読むだけの勉強、提案書を書かずにおこなう営業活動、設計書を書かずに挑むソフトウェア開発、が一見効率良さげに思えつつも実りが少ないように、たとえどれだけ自分が理解しているという「錯覚」があったとしても、自分の脳内にあるものを一旦目に見える形にするという行為には、それだけの時間と労力を投じるだけの価値があるのです。

左記は、こうしてghostが愚にもつかない「チラシの裏的落書き」を書きつづける理由でもあります。

また、仮に本稿で取り上げた様式の選択については脳内で解決できたとしても、目に見える形で試行することで初めて気づくこと、自身の「理想の鉄道風景」の中に埋もれていた宝石の原石の発見、は必ずあります。このレイアウト設計論シリーズでは、そういう事例をいろいろと取り上げていこうかと考えておる次第です。

例によって例の如く、マジ半分ネタ半分です。あまり真に受けないようご注意ください。

 


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